巨人X❶ 死のイメージ「怖さ」の根源
50mの壁を築き、その内側でまどろんでいた人類の平和は、突如出現した
超大型巨人
によって破られた。
「別冊少年マガジン 2009年10月号」から始まった
「進撃の巨人」
が以後の平成マンガに与えた影響は計り知れない。
「むき出しの筋肉にはメカニックな機能美を感じる」
作者 諌山創 談
●「記憶」と「体験」
「怖さって何だろう」
と作者の諌山創は考え、
「最初は全身岩のような巨人を描いたが、ふと小学生の時に見た展覧会を思い出した」諌山談
90年代、遺体の展覧会があり「死体ブーム」の背景があった。
一方、深夜バイトで見た泥酔する人間がモデルでもある。
「人のままならぬ姿、意思の疎通ができない人間の怖さ。毎晩憤っていた。」諌山談
●反転する意味
巨人になる少年をヒーローにした、手塚治虫の
「ビッグX」(63年)
「むしろ『ブラックジャック』の解剖図に影響を受けているかも」諌山談
少年が使う薬「ビッグX」はナチス・ドイツが巨人兵団を作るために開発という設定。
「巨人」には「戦争の兵器」というイメージが常につきまとうが、進撃の巨人の眼には哀しみの色がある。
「暴力と憎しみの象徴だったのが、後で読み返すと違って見えるようにしたかった。怖がらせるだけの『商品』にはしたくなかった」
「巨人は何の象徴かとよく聞かれるが、現実を風刺する意図はない。ただ、何が正義かは、常に相対化する視点を持っていたい」
「僕の作品は誰かを傷つけているかもしれないが、それでも、『こんなマンガが読みたい』という気概でやってきた」諌山談
巨人X❷ 戦争の記憶と巨大ロボ
日本における巨大ロボットのルーツは
横山光輝 「鉄人28号」(56年)
鉄人は、日本軍が戦局を覆すために開発したロボットという設定であり、戦争の影が色濃い。
「鉄人28号の原イメージはB29爆撃機とキングコング」横山談
「おおきなもの」には頼もしさと恐怖の2面性が常にある。
「機動戦士ガンダム」の富野由悠季監督に見出され、ロボットデザイナー・マンガ家として活躍する永野護氏は語る。
「巨大ロボットには、戦争に負けた日本人のコンプレックスが反映していると思う」
「自分の肉体では勝てないので、自分より強大な何かに乗って戦う。そういうのが日本人は好き」永野談
甲冑のような四角い姿ではなく、西洋の城のような優美で装飾的な豪華なドレスを思わせる「永野ライン」は、80年代以後のロボットデザインに革命を起こし、現在も影響を与えている。
その永野氏は86年から大河ロボットマンガ
「ファイブスター物語・ストーリーズ(FSS)」
を連載している。
「ロボットのかっこよさとは恐ろしさ。人間にはなすすべがない、逃げないと殺されるという恐怖。それを出せるか考えてデザインしている」永野談
70数年前の戦争で経験した「圧倒的破壊力」の記憶は今も巨大ロボットの姿に投影されている。
FSS・13巻からロボットの呼び名をMH(モーターヘッド)からGTM(ゴティックメード)へ変更。より繊細にシャープになり、人間の形から離れた。
「自分のデザインに飽きて、もう一度『誰も見たことがないもの』を作りたかった」
「兵器や武器をキレイだとも感じる。自分の生存を優位にしてくれるから。それも人間の本能」永野談
巨人X❸ 鬱屈した心や悪意の権化
「巨人X」とは何かを考える上で重要な作品が
諸星大二郎 「影の街(ぼくとフリオと校庭で収録)」(85年)
「鬱屈した少年の心が怪物になったという作品だが、まず絵のイメージが先にあった」諸星談
中国史学者・貝塚茂樹著 「中国神話の起源」に出てくる怪物を諸星氏が想像した絵が元。
庵野秀明監督や宮崎駿監督もファンだと公言。猫背の巨人は庵野監督の「新世紀エヴァンゲリオン」に影響を与える。
諸星氏には「巨人譚」という連作集もあり、「えたいが知れないもの」への畏怖を映す。
平成最後の巨人マンガが、
奥裕哉 「GIGANT(ギガント)」(18年~)
「大きいものに対するフェティシズム的な憧れがある。最近のハリウッドCG映画を僕らしい手法で描いたたらどうなるかやってみたかった」奥談
自在に巨大化するヒロインと巨大な破壊神の格闘シーンは『シン・ゴジラ』に勝るとも劣らない。殺戮の破壊神を望んだ(源泉)のはネット民だった。
「海賊版サイト『漫画村』に憤っていた。みんな自分のことしか考えていない。無邪気な悪意があふれ、そんな『見えない敵』と戦うヒロインを作りたかった」奥談
最も恐ろしく現代的な巨人は、無数の人の心が集まって生まれる。
マンガのくに(読売新聞)より備忘録的に抜粋レポート

















